Created for expats living in Japan

コロナで亡くなった方とも最期の対面が出来る - エンバーミングとは

この記事は、ロバート・ホーイ様(FUNERAL SUPPORT SERVICES)からご寄稿いただいたものです。

エンバーミングとは、亡くなった方のご遺体を消毒・保存し、より自然で生き生きとした姿に戻すための専門的な処置です。日本におけるエンバーミングは、葬儀のひとつとして年々増加し、ご遺族にとって人気の高まるオプションになってきています。少し前までは、遺体の腐敗を遅らせるためにドライアイスが使用されていましたが、 エンバーミングは、特別に調合された化学薬品を体内に注入し、まるで眠っているような自然な外観を保ちながら、殺菌・保存・修復を行います。そのため、ご遺体を海外に移送することも可能です。日本に住む外国人の多くは、自国での葬儀の選択肢の一つとして、この方法を知っているかもしれません。

今回は、エンバーミングを施すことで、新型コロナウィルス感染症で亡くなった方とご遺族が最期の対面ができた例や、コロナが原因で亡くなった方のご遺体をエンバーミング後に海外移送した話をご紹介します。

新型コロナウィルス感染症の方に対するエンバーミング

かけがえのない大切な人が新型コロナウィルス感染症による発熱で倒れ、病院への見送りが「最期の対面」となることを想像してみてください。これはパンデミックの中で起きている現実なのです。

今までと何ら変わることのない日常を過ごしているところにある日突然、発熱とともに新型コロナウィルス感染が判明すると、その後の人生が想像もしなかったほどに変わってしまうケースも少なくありません。その症状はゆっくりと始まりますが、場合によっては重症化してしまうこともあるでしょう。家族は病院で愛する人を見舞うことはできませんが、看護師さんが患者さんと家族をオンライン面会でつなぐ機会を提供している病院もあります。

しかしながら、家族が愛する人に会うのはこれが最期になる可能性もあるのです。なぜなら、不幸にして新型コロナウィルス感染症によって亡くなられた方のご遺体は、葬儀も執り行われずに直接火葬場に運ばれてしまうからです。

昨今のコロナ禍の状況は、私がエンバーマーとしてのキャリアを積み始めた当時の記憶を呼び起こします。私は1980年代のエイズ危機の最盛期にカナダで葬儀ディレクター兼エンバーマーとなりました。当時、エイズについての解明が徐々に進んでいたため、私はエンバーミングを提供することは十分安全だと感じていました。

エンバーミング」とは亡くなられた方のご遺体に消毒、防腐、そして復元処置を施すもので、これによってご遺族が安全な状態で愛する故人と対面することが叶い、さらには触れることも可能になります。

私は新型コロナウィルス感染症によって亡くなられた方々へのエンバーミング施術によって、ご遺族の悲しみをいくらかでも和らげることが出来ていると考えています。

「もう一度会えますよ」- パンデミックが変えた最期のかたち -

2020年3月、当時テレビなどで大きく報道されていた「クルーズ船ダイヤモンド・プリンセス号」の乗客で、横浜港に到着したカナダ人男性が東京都内の病院で新型コロナウィルス感染症によってお亡くなりになられました。私どもフューネラルサポートサービス合同会社はこのとき初めて、新型コロナウィルス感染症ケースに対するエンバーミング施術とご葬儀を執り行うこととなりました。ご遺族から連絡を受けた当初、この感染症に対する世間の見方を気にされ、お父様が新型コロナ感染症によって亡くなられたという事実を私に黙っておられました。

その際のご遺族の希望は直接火葬をしてご遺骨とともにカナダへ帰国されたいという内容でしたが、しばらくして私は事の全容を聞かされ、そしてなお大きく取り乱されているご遺族に「エンバーミングをすればもう一度お父さんに会ってお別れができますよ」とお伝えしました。ご遺族は私からの説明に予想もしていなかったご様子でとても驚かれていらっしゃいました。

私は防護服で完全装備のうえ、お父様のご遺体を病院から自社のエンバーミング処置室へお連れしました。また会社の代表者としてスタッフたちを危険にさらさないよう、私自ら初めての新型コロナウィルス感染症ケースのエンバーミングを施すことを決断しました。

私はパンデミック初期からカナダと米国の同業の仲間たちと連絡を取り合い、この状況下で彼らがどのような形でご遺族に葬儀サービスの提供をしているのかを理解していました。そしてこの日本でも、彼らが提供している葬儀サービスと同等の対応が可能であると確信していました。私のスタッフたちは新型コロナウィルス感染症によってお亡くなりになられた方に対してエンバーミングを提供することにとても前向きでしたが、それと同時に同居する家族への感染を心配する声もありました。

スタッフ自身の感染から家族への感染という事態を何としても防ぐため、安全なエンバーミング施術の手順を確立し、新型コロナウィルス感染症ケース施術の都度、消毒専門業者による施設内消毒を徹底することとしました。

それから数日後、私たちはダイヤモンド・プリンセス号の乗客であったカナダ人男性のためにささやかなご葬儀を執り行いました。ご遺族のほか、最期を看取った病院のお医者様、看護師さんたちも参列してくださり、皆様が感染を心配することなく安全なかたちでお別れのために集まることが叶いました。

病院関係者の皆様は非常に献身的に最期まで尽くされており、私が病院へご遺体のお迎えに伺った際も院長先生が霊安室までお見送りにいらっしゃり、搬送車が出発する際には院長先生はじめ、関係者の方々全員が深くお辞儀をされた姿に大変感銘を受けました。そしてご葬儀に参列された主治医の先生が「必ずまた元気になるよと約束したのに・・・」と涙を流しながら亡くなった男性の頭を優しく撫でられていた姿を私は一生忘れることが出来ません。

まだその当時、新型コロナウィルスは未知のものであり、治療法も現在ほどは確立されていませんでした。そしていま私たちはパンデミックの終わりが近いかのように感じていますが、今もなおこの恐ろしい感染症で亡くなられた方々をほぼ毎日のようにエンバーミングのために受け入れています。私たちはこれからも続く日常生活の中で、新型コロナウィルスと共存していくこと学びました。生の中に死があり、それを受け入れるように変化を遂げたように感じます。

コロナ感染のご遺体を海外搬送したケース

新型コロナウィルスの影響は日本国内の外国人コミュニティーにも及んでいます。

ここからはレストランを経営していたアフリカ人男性の日本人の奥さんとの話をご紹介したいと思います。奥さんからお聞きしたお話によりますと、ご主人は新型コロナ感染を非常に恐れていたそうですが、事業が失敗しないよう、そして家族を養うためにできる限り働かなければならなかったそうです。経営するレストランは何ヶ月も閉鎖せざるを得ない状況が続いていたため、再開が決まったときご主人は事業の立て直しを図るべく、毎日毎日働き続けなければなりませんでした。

ところが、可能な限りの感染予防対策を講じていたにも関わらず、ご主人は新型コロナウィルスに感染してお亡くなりになられたのです。ご主人のご遺体は母国へお送りすることが決まり、当社では新型コロナウィルス感染症が死因の方のご遺体を初めて海外搬送することとなりました。感染症が原因で死亡した場合、通常であれば海外へ搬送することはできません。

しかしながらこの方に関しては、駐日大使館による人道的な配慮によって本国搬送のために必要な書類を提供してくださったのです。私は海外搬送に必須であるエンバーミングを施し、さらに特別なコンテナを準備してご主人を母国に送り出すことができました。

これまでに200件を超えるご遺族の皆様方に新型コロナウィルス感染症対応エンバーミングを提供してまいりました。そのうちほとんどの方々はご高齢であるか、もしくは持病のある方々でしたが、小さなお子さんを含む若年層の方たちが何の兆候もなく新型コロナウィルスによって命を落とされたケースもあることに非常に驚いております。

報道によって毎日その日の感染者数がわかりますが、その数字によって数週間のうちに新型コロナウィルス感染症案件の施術件数が増加するであろうという予測がつきます。まさに波となって押し寄せてくるのです。

ご遺体に関わる私どもの仕事を「悲しみと向き合う恐い仕事」と多くの方々は思われるかもしれません。しかし、この苦難の時代にお辛い思いをされているご遺族の皆様に寄り添い、お力になれるということに何とも言葉では言い表すことの出来ないやりがいを感じています。

それは自分自身に与えられた人生への感謝、そしてかけがえのない大切な人たちへの感謝の想いとなっています。

英語で葬儀のサポートを

フューネラル サポート サービスは、エンバーミング、復元処置、化粧、ご遺体の海外搬送の手続きなどのサービスを提供する、IFSAの認可企業です。日本語と英語のバイリンガルでサービスを提供しているため、言葉の心配も必要ありません。

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